食輸出の「創り方」《最終回》食輸出の展望

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これまで、食輸出を行うにあたり何が必要なのかという視点で、経験に基づき私見を書いてきた。

一つ目は、「なぜ行おうと思ったのか」という動機付けである。国、自治体、物流業者、流通業者、また、当社のような支援事業者は、必ず、食輸出を行うことがメーカーや生産者の収入拡大につなげることを忘れてはならない。また、メーカーや生産者においては、輸出することだけに全力を注ぐのではなく、卸先・販売先の一つが海外という柔軟な考え方も非常に大切だ。

二つ目は「役割分担」を行うことだ。輸出に関わる全ての内容を、生産者やメーカーがやる必要はない。海外でのマーケティングは日本貿易振興機構(ジェトロ)のような国の機関に支援していただき、物流に関しては物流事業者に任せればよい。信頼できるパートナーを探し、しっかりとしたアライアンスを構築していくことが必要だ。メーカーや生産者に求められることは、どの商品を売りたいか(売れるのか)を検討。それに対するリスト作成、展示会、商談会や物産展にどのような意味合いを持ち、出展するかということを事前によく考えておくことだ。

前記をしっかりと検討し、理解しておけば、食輸出にかかる第一歩も踏み出しやすくなるだろう。各社が食輸出に関して、成功してもしなくても、しっかりとした意味合いを持つことができるのではないかと考える。

今後の食輸出は、どのようになっていくのだろうか。輸出額は現在、7500億円超だ。アジアでの日本食ブームや訪日外国人旅行客の急増により、おそらく今後数年で、日本政府が当面の目標に掲げている1兆円までは到達するだろう。その後はどうなっていくのか。

これまでは、日本食の輸出そのものに焦点が当たり、「物理的」に食品を輸出することに尽力がなされてきた。国の補助金の使途も、展示会出展や物産展の開催などプロモーションの場として、「点」として考えられているものが多かったように感じる。そのような状況の中で、国・自治体が先導し、香港やシンガポールといった比較的輸出がしやすい国に対し、輸出が進められてきた。

先般、食輸出にかかるシンポジウムにパネラーとして呼ばれた。その際、「日本の食輸出は何分咲きか」という質問を頂き、「輸出国と商品によっては満開」とお答えした。しかしながら、食品を海外に輸出し、販売する「仕組み」という部分では、まだまだ、つぼみと考えている。生産、加工、流通、物流、プロモーション、販売という一連の流れをしっかりと構築した上で、輸出を考えることについて、まだまだこれからだ。

言い換えれば、その仕組みさえ構築すれば、香港やシンガポールなど、日本食が飽和状態と言われている国・地域にも、まだまだ参入できる可能性があるということだ。「仕組み」により付加価値が高まり、同じ商品でも異なる意味合いを持たせることができる。

これまで、輸出に携わってきた事業者が「点」で行ってきた事業を、仕組みという「線」に広げることこそが、食輸出をさらに伸ばしていくために必要なことだ。実現すれば2030年に輸出額2兆円も夢ではない。その潜在的な可能性こそが、「食輸出に魅せられた」要因であり、また、今後の展望とさせていただく。
(おわり)

株式会社 ITADAKIMASU FINE FOOD 代表取締役副社長 高橋啓輔
2017年9月27日 日刊CARGO寄稿