食輸出の「創り方」《5》商流構築への支援機関の役割(下)

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次に必要なことは商品のブランディングである。この場合、ロゴなどのブランディングではなく、現地にマーケットインさせる商品を企画するということを指す。日本の事業者は皆、素晴らしい商品を出品しているのは間違いない。皆が自信を持って海外に売り込んでいる。ただ、自信があるあまりにプロダクトアウトさせることが多く、海外での趣向、価格、賞味期限のいずれかが合わず、結局は取引につながらないということが散見される。

先般、農商工連携などグローバルバリューチェーン構築シンポジウムにパネリストとして登壇させていただいた際に、座長からの質問で「現在の食品輸出は桜に例えると何分咲きですか?」という質問があった。私は、国によっては乱れ咲き、国によっては蕾と回答した。

例えば、アジアでは、香港が乱れ咲きに該当すると考える。日本食品最大の輸出国であり、2016年においては、近畿管内食品輸出総額2204億円のうち33.7%の742億円が香港に向けて輸出されている(近畿農政局・近畿管内における農林水産物・食品の輸出の状況と取り組み資料から引用)。

そのような状況のため、食品輸出に取り組む事業者からは、香港は値段交渉により日本より安い金額でしか取引に応じてくれないため、国内で売った方がもうかる、香港で利益を取るのは難しいという声をよく聞く。国によっては、Aという素晴らしい商品をAという素晴らしい価値で輸出を行うことに限界がきているのかもしれない。他に確固たる輸出国があれば、そちらを目指して輸出すれば良い。ただ、香港が最も輸出を行いやすい国であることは確かである。

では、どのようにブランディング(マーケットイン)をしていけばいいのか。私は、ここに協力・支援機関の役割があるのではないかと考える。日本企業は大変優れた技術を持っている。Aという素晴らしい商品にそれほどコストをかけることなく、付加価値をつけ、「A+」というさらに素晴らしい商品にすることが可能なのだ。

例えば、海外へ加工品を輸出する際には、味・価格・賞味期限の3要素がそろわないと、なかなか輸出できないことは前述してきた。味、価格については、事業者による企業努力でなんとか解決していかざるを得ないが、賞味期限については、日本の素晴らしい技術で解決することができる。例えば、当社の協力企業である凸版印刷のGLフィルムを利用すれば、賞味期限を劇的に延長することが可能である。賞味期限を延長することにより、現地での通関リスク、バイヤーの在庫リスクが激減させることが可能になる。そうすることにより、バイヤーが一度に取引できる量も増加させることが可能であるし、輸送費用も低減させることが可能になる。

また、生鮮水産物が高級レストランに向けて空輸されているが、やはり輸送や通関のリスクが非常に高い。当社の協力企業であるサラヤ(大阪市)のラピッドフリーザー(アルコールプライン凍結)を利用すれば、細胞を破壊することなく凍結することが可能であり、1年先でも刺身で食べることができる。通関リスクやパイヤーの在庫リスクを激減することもできる。海上輸送が可能となり、輸送費用の低減にもつながる。現地高級レストランはもちろんのこと、それほど高級ではない日本食レストランにも流通することが可能となる。

このように、「A+」という商品にしていくことが支援機関の重要な役割の一つであり、商品のブランディングにつながるものと私は確信している。

最後に、忘れてはならないことは、全ての支援を点ではなく線で行うことだ。食品輸出の拡大は、生産―加工―流通―物流―ブランディングまで、全てがそろった時に成功する。決して取り組みを点として考えるのではなく、線として考える意識を持つということが非常に重要となる。

株式会社 ITADAKIMASU FINE FOOD 代表取締役副社長 高橋啓輔
2017年6月28日 日刊CARGO寄稿